バリュエーションの罠
PER が低い。だから割安だ。——その推論には、少なくとも三つの欠落があります。各指標が機能しない条件を明示します。
PER(株価収益率)の罠
PER = 株価 ÷ 1 株当たり利益(EPS)
PER が機能しない条件
- 赤字企業に PER を使う。
- 景気循環の頂点で過去利益を基準にする。
- 一時利益を平常利益と誤認する。
- 希薄化後株式数を使わない。
- 成長率の低下を織り込まない。
「その利益は、景気が反転しても維持されますか。維持されないなら、あなたが計算した PER の分母は存在しません。」
PBR(株価純資産倍率)の罠
PBR = 株価 ÷ 1 株当たり純資産(BPS)
PBR が機能しない条件
- 無形資産が重要な企業に使う。
- 資産の帳簿価額と時価が乖離している。
- ROE が WACC を下回る企業を PBR だけで評価する。
- 自己株買いによる BPS 増加を成長と誤認する。
EV/EBITDA の罠
EV/EBITDA = 企業価値 ÷ EBITDA
EV/EBITDA が機能しない条件
- 減価償却を無視して EBITDA だけを見る。
- 設備集約型企業で設備投資を軽視する。
- ネットキャッシュ企業と高債務企業を同じ倍数で比較する。
- 営業外損益を無視する。
「EBITDA は『現金に近い利益』ではない。設備投資を無視した利益は、現金を生みません。」
DCF モデルの前提
企業価値 = Σ [FCF_t / (1+WACC)^t] + 終価 / (1+WACC)^n
DCF の前提条件
- 将来のフリーキャッシュフロー(FCF)の予測。
- 割引率(WACC)の推定。
- 永続成長率(g)の仮定。
- 予測期間(n)の設定。
DCF の落とし穴
- FCF 予測が楽観的すぎる。
- WACC が低すぎる。
- 永続成長率が経済成長率を上回る。
- 感応度分析を行わない。
残余利益モデル
企業価値 = 簿価純資産 + Σ [残余利益_t / (1+株主資本コスト)^t]
残余利益 = 純利益 - (株主資本 × 株主資本コスト)
残余利益モデルの特徴
- ROE が株主資本コストを上回る企業に有効。
- 配当政策に依存しない。
- 簿価純資産を起点とする。
相対評価の限界
同業他社との比較は有用だが、以下の点に注意が必要。
- 比較企業の選定が恣意的。
- 業界全体が割高な場合、相対評価は意味をなさない。
- 成長率、利益率、資本効率の違いを無視する。
- 景気循環の位相を無視する。
「同業他社も割高なら、あなたも割高です。相対評価は、絶対評価を代替しません。」